後脛骨筋腱機能不全とは?解剖・原因・症状・成人期扁平足・装具療法まで解説
足の内くるぶしの後ろが痛む、歩くと足の内側が疲れる、以前より土踏まずが低くなってきた。
こうした症状の原因の一つに、 後脛骨筋腱機能不全(PTTD:Posterior Tibial Tendon Dysfunction) があります。
扁平足は生まれつきの足の形だけではありません。 成人になってから足部の支持機構が変化し、徐々に土踏まずが低下する 成人期発症の扁平足もあります。
後脛骨筋腱の障害は、その代表的な原因の一つです。 初期には腱の痛みや腫脹が中心ですが、進行すると足部の変形が生じ、 靱帯や関節にも負担が及ぶことがあります。
この記事では、後脛骨筋腱の解剖から、なぜ機能不全によって扁平足が生じるのか、 病期別の症状、評価方法、インソールや短下肢装具の役割まで解説します。
- 後脛骨筋腱は内側縦アーチの動的支持に重要な役割を担う
- 腱の変性や機能低下は、成人期発症の扁平足に関係する
- 初期には内果後方の疼痛・腫脹がみられやすい
- 進行すると踵骨外反、前足部外転、内側縦アーチ低下が生じる
- 病期と変形の柔軟性によってインソール・装具の適応が変わる
- 早期の評価と適切な保存療法が重要である
後脛骨筋腱とは?まずは解剖から理解する
後脛骨筋(posterior tibialis)は、下腿の深後方コンパートメントに存在する筋です。 その腱が後脛骨筋腱(posterior tibial tendon)です。
後脛骨筋は足部の内反・底屈に関与し、特に立位や歩行時には 足部の内側縦アーチを動的に支持する重要な筋として働きます。
起始・停止・神経支配
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 起始 | 脛骨・腓骨の後面および骨間膜 |
| 停止 | 主に舟状骨粗面。さらに楔状骨、立方骨、複数の中足骨底などへ腱の線維が広がる |
| 神経支配 | 脛骨神経(主にL4~L5) |
| 主な作用 | 足部内反、足関節底屈の補助、内側縦アーチの動的支持 |
後脛骨筋腱の走行
後脛骨筋腱は下腿後面から遠位へ走行し、 内果(内くるぶし)の後方を回り込む ように足部内側へ向かいます。
内果後方では屈筋支帯によって保持され、 足根管内の構造の一つとして走行します。
その後、主に舟状骨粗面へ停止し、足根骨や中足骨へ広がることで、 足部内側の支持機構に関与します。
内果後方は腱の走行方向が変わる部位であり、 歩行や荷重に伴う機械的負荷が加わります。
後脛骨筋腱はなぜ土踏まずを支えられるのか
足部には、内側縦アーチ、外側縦アーチ、横アーチが存在します。
このうち、後脛骨筋腱と特に関係が深いのが 内側縦アーチです。
内側縦アーチは踵骨、距骨、舟状骨、楔状骨、第1~第3中足骨などから構成されます。
アーチの支持には、骨の配列だけでなく、 足底腱膜、ばね靱帯(踵舟靱帯複合体)、 足底の靱帯、筋・腱などが協調して働きます。
静的支持と動的支持
足部アーチを支える構造は、大きく静的支持機構と動的支持機構に分けて考えられます。
| 支持機構 | 代表的な組織 | 役割 |
|---|---|---|
| 静的支持 | ばね靱帯、足底腱膜、足底靱帯、関節包など | 荷重時の骨配列とアーチの保持に寄与する |
| 動的支持 | 後脛骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋、足内在筋など | 筋活動によって足部の支持と運動を調整する |
後脛骨筋腱は、この動的支持機構の中心的な要素の一つです。
歩行中の後脛骨筋の役割
歩行時、足部は接地後に荷重を受け入れるため、ある程度の柔軟性が必要です。 一方、蹴り出しに向かう局面では、足部が安定した支持基盤となる必要があります。
後脛骨筋は、荷重時の過剰な回内運動を制御することや、 足部の内反・安定化に関与します。
この機能によって、足部は柔軟性と安定性を適切に使い分けやすくなります。
ただし、足部の安定化は後脛骨筋だけで成立するものではなく、 靱帯や他の筋群、足関節・足部の関節運動との協調によって実現します。
後脛骨筋腱機能不全とは
後脛骨筋腱機能不全とは、後脛骨筋腱の変性、炎症、損傷などによって、 腱が本来の機能を十分に発揮できなくなった状態です。
英語では Posterior Tibial Tendon Dysfunction(PTTD) と呼ばれます。
従来は成人期発症の扁平足を説明する中心的な病態として扱われてきました。
しかし現在では、後脛骨筋腱だけでなく、 ばね靱帯や三角靱帯、足部関節の配列なども変形に関与することから、 進行性崩壊性足部変形(PCFD) という概念も用いられています。
PCFDは後脛骨筋腱の障害だけに限定されない、 より広い足部変形の概念です。 そのため、PTTDとPCFDは完全に同義ではありません。
病因・病態:なぜ後脛骨筋腱が機能不全になるのか
後脛骨筋腱機能不全は、一つの原因だけで生じるとは限りません。
腱への繰り返しの負荷、組織の変性、足部の支持機構の低下など、 複数の要因が関与すると考えられています。
主な関連要因
- 肥満:体重負荷の増大により足部の支持組織へ負担が加わる
- 加齢:腱組織の変性や修復能力の変化が関与する
- オーバーユース:長時間の立位、歩行、運動などによる反復負荷
- 外傷:足関節周囲の損傷や腱への直接的な障害
- 足部の力学的要因:過剰な回内や支持機構の不均衡など
- 併存疾患:糖尿病や炎症性疾患などが関係する場合がある
これらの要因が重なることで、腱の微細損傷や変性が生じ、 後脛骨筋腱の機能が低下することがあります。
なお、一般に「後脛骨筋腱炎」と呼ばれる場合でも、 慢性例では炎症だけでなく腱の変性が主体となることがあります。
後脛骨筋腱の機能不全でなぜ扁平足になるのか
後脛骨筋腱の機能が低下すると、 足部の回内運動を制御する能力や内側縦アーチの動的支持が低下します。
その結果、荷重時に距骨・舟状骨周囲の配列が変化し、 内側縦アーチが低下しやすくなります。
① 内側縦アーチの低下
後脛骨筋腱の支持機能が低下すると、 荷重時に舟状骨周囲が下方へ移動しやすくなり、 土踏まずの高さが低下することがあります。
② 踵骨の外反
後足部では踵骨の外反が増大することがあります。
踵を後方から観察すると、踵が外側へ傾いたように見えます。
③ 前足部の外転
後足部の変形とともに、前足部が後足部に対して外側へ向く 前足部外転が生じる場合があります。
この変化によって、足を後方から見た際に外側の趾が多く見えることがあります。
④ 靱帯や関節への負担
アーチの低下が進むと、ばね靱帯などの支持組織にも負荷が加わり、 変形がさらに進行する場合があります。
進行例では、後足部の柔軟性が失われたり、 関節の変性が生じたりすることがあります。
後脛骨筋腱の機能低下 → 内側縦アーチの動的支持低下 → 荷重時の足部配列変化 → 踵骨外反・前足部外転 → 靱帯や関節への負荷増大 → 変形の進行
ただし、すべての患者さんがこの順序で進行するわけではありません。
主な症状
初期:内果後方の疼痛と腫脹
初期には、内果後方から足部内側にかけての疼痛や腫脹が代表的です。
長時間の歩行や立位で症状が増強し、 休息によって軽減することがあります。
この段階では、明らかな扁平足変形がみられない場合もあります。
進行期:アーチ低下と歩行機能の低下
機能不全が進むと、荷重時に内側縦アーチが低下し、 踵骨外反や前足部外転が目立つようになります。
片脚で踵を持ち上げる動作が難しくなったり、 歩行時の蹴り出しが弱くなったりすることがあります。
重症例:変形の固定化
さらに進行すると、足部の変形が硬くなり、 他動的にも矯正しにくくなる場合があります。
非荷重時にも変形が残ることがありますが、 重要なのは単に非荷重時に扁平足かどうかではなく、 変形が柔軟で矯正可能か、固定化しているかです。
また、進行例では内側の疼痛が目立たなくなる一方で、 外果周囲や足部外側に疼痛が現れることもあります。
病期分類:Johnson–Strom分類
後脛骨筋腱機能不全の進行を理解する際には、 Johnson–Strom分類がよく用いられます。
後にMyersonによってStage IVの概念が加えられました。
| 病期 | 主な特徴 | 変形の状態 |
|---|---|---|
| Stage I | 腱周囲の疼痛・腫脹、腱機能の低下 | 明らかな固定性変形はない |
| Stage II | 内側縦アーチ低下、踵骨外反、前足部外転 | 柔軟性があり、矯正可能な扁平足 |
| Stage III | 変形の進行、関節の変性や外側部痛など | 固定性の後足部変形 |
| Stage IV | 足関節にも変形や不安定性が及ぶ | 足関節外反・距骨傾斜などを伴う場合がある |
この分類は病態を理解するうえで有用ですが、 実際の装具選択では病期だけでなく、 疼痛、筋力、変形の柔軟性、活動性などを評価する必要があります。
評価方法
① 内果後方の圧痛・腫脹
後脛骨筋腱の走行に沿って圧痛や腫脹がないか確認します。
② Single-leg heel rise test(片脚踵上げテスト)
片脚立位で踵を持ち上げられるかを評価します。
正常では踵上げ時に後足部が内反方向へ動きますが、 後脛骨筋腱機能不全では踵上げが困難になったり、 後足部の内反が不十分になったりする場合があります。
ただし、このテストは後脛骨筋腱だけでなく、 下腿三頭筋の筋力、疼痛、バランス能力などの影響も受けます。
③ Too many toes sign
立位で後方から足部を観察し、 前足部の外転によって外側の趾が通常より多く見えるかを確認します。
これは前足部外転を示唆する所見ですが、 単独で診断を確定するものではありません。
④ 踵骨外反とアーチの評価
立位で踵骨の傾きや内側縦アーチの高さを観察します。
非荷重時と荷重時の違い、 他動的な矯正の可否も重要な評価項目です。
⑤ 画像検査
荷重位X線検査は、足部の骨配列や変形の程度を評価するために用いられます。
必要に応じて、超音波やMRIで後脛骨筋腱、 周囲の靱帯などを評価する場合があります。
治療の基本:早期の保存療法が重要
後脛骨筋腱機能不全の治療は、 症状の程度、病期、変形の柔軟性などによって異なります。
初期には、疼痛を軽減し、 腱への過剰な負荷を抑えることが重要です。
保存療法には、活動量の調整、靴の見直し、 運動療法、インソール、装具療法などがあります。
強い疼痛がある場合には、 一時的な固定や免荷が検討されることもあります。
初期段階で適切に評価し、 必要な治療を開始することが重要ですが、 インソールを使用すれば必ず変形の進行を防げる、 というわけではありません。
インソール療法の考え方
インソールは、足部の荷重分布やアライメントを調整し、 疼痛や歩行時の負担を軽減する目的で用いられます。
内側縦アーチの支持
内側縦アーチを支持することで、 荷重時の過剰なアーチ低下を抑えることを目指します。
ただし、アーチを強く押し上げればよいわけではありません。 過剰な支持は足底の疼痛や圧迫を生じることがあります。
踵部の安定化
深めのヒールカップや適切な後足部支持によって、 踵部の安定性を高めることがあります。
後足部の外反が強い場合には、 装具設計上の補正方法を検討します。
足部全体の荷重バランス
前足部と後足部の位置関係、 靴の形状、歩行時の荷重状態を考慮して調整します。
インソールの効果は、変形の柔軟性や症状によって異なります。
短下肢装具が必要になる場合
インソールだけでは十分な支持が得られない場合、 短下肢装具(AFO)が検討されることがあります。
短下肢装具は足部だけでなく下腿も利用して支持するため、 足部・後足部の運動をより広い範囲で制御できます。
装具の種類と特徴
| 装具 | 主な特徴 | 検討される場面 |
|---|---|---|
| 足底挿板・インソール | アーチ支持、荷重分散、後足部の安定化 | 初期~柔軟性のある変形 |
| UCBL型足底装具 | 深いヒールカップと高い側壁で後足部・中足部を支持 | 柔軟性のある扁平足変形など |
| 関節付きAFO | 足関節運動を一定程度許容しながら足部を支持 | 柔軟性のある変形で、より強い制御が必要な場合 |
| 固定式AFO | 足関節・後足部の動きを広く制御 | 疼痛が強い場合、支持性を重視する場合など |
どの装具が適切かは、 足部の柔軟性、関節可動域、筋力、疼痛、活動性、 靴との適合などを考慮して判断します。
装具による矯正の力学
後脛骨筋腱機能不全に対する装具では、 足部の過剰な回内や後足部外反を制御し、 内側縦アーチを支持すること が重要です。
装具による支持は、足底からの単純な押し上げだけでなく、 踵部・中足部・下腿部などに作用する力を組み合わせて行います。
後足部の制御
後足部外反を抑えるためには、 踵骨周囲を適切に保持し、 足部の位置を安定させる必要があります。
UCBL型足底装具では、 深いヒールカップと側壁によって 踵部・中足部の支持性を高めます。
内側縦アーチの支持
内側縦アーチを支持することで、 足部の過剰な変形や局所的な荷重集中を軽減することを目指します。
ただし、固定性変形を無理に矯正すると、 突出した骨部や足底への圧迫が増大する場合があります。
柔軟性と固定性で目的が変わる
柔軟性のある扁平足では、 装具によって足部をより望ましい位置へ誘導することが検討されます。
一方、固定性変形では、 無理な矯正よりも疼痛軽減、圧迫分散、安定した歩行の確保を 優先する場合があります。
病期別に考える装具療法
| 病期 | 主な課題 | 装具療法の考え方 |
|---|---|---|
| Stage I | 腱の疼痛・腫脹 | 負荷軽減、足部支持。症状が強ければ一時的な固定も検討 |
| Stage II | 柔軟性のある扁平足変形 | インソール、UCBL型装具、必要に応じてAFOで足部配列を制御 |
| Stage III | 固定性変形、関節痛 | 疼痛軽減、荷重分散、安定性確保を重視した装具 |
| Stage IV | 足関節を含む変形・不安定性 | 足関節まで含めた支持や手術療法の検討が必要になる場合がある |
この表は一般的な考え方であり、 病期だけで装具を一律に決めるものではありません。
運動療法と生活上の注意点
保存療法では、装具療法と運動療法を組み合わせることがあります。
症状が落ち着いている場合には、 後脛骨筋を含む足部周囲筋の筋力訓練、 下腿三頭筋の柔軟性改善、 足部の機能訓練などが検討されます。
ただし、急性の疼痛や腫脹が強い時期に、 無理な踵上げ運動や高負荷運動を行うことは適切ではありません。
日常生活では、長時間の立位や歩行、 急激な運動量の増加などによって症状が悪化しないかを確認します。
靴は踵部の保持性や足部の安定性を考慮して選ぶことが重要です。
鑑別が必要な疾患
内果周囲の疼痛や扁平足がある場合でも、 すべてが後脛骨筋腱機能不全とは限りません。
- 足根管症候群
- 舟状骨周囲の障害・有痛性外脛骨
- 足関節・距骨下関節の関節症
- 炎症性関節疾患
- 神経障害に伴う足部変形
- 他の腱・靱帯損傷
疼痛部位、神経症状、外傷歴、関節可動域、 画像所見などを総合して評価します。
義肢装具士が押さえたいポイント
後脛骨筋腱機能不全の装具療法では、 単に扁平足だからアーチを高くする、 という考え方では不十分です。
重要なのは、変形が柔軟か固定性か、 どの部位に疼痛があるか、 どの程度の支持が必要かを判断することです。
また、後足部外反や前足部外転の程度によっては、 足底挿板だけでは十分な制御が得られない場合があります。
そのような場合には、足部を包み込む形状の装具や 短下肢装具を検討します。
装具の適合では、舟状骨周囲、内果、踵部、 足底の骨性隆起への圧迫にも注意が必要です。
まとめ
後脛骨筋腱は、内果後方を走行し、 主に舟状骨へ停止する腱で、 内側縦アーチの動的支持に重要な役割を担います。
腱の変性や機能低下が生じると、 足部の支持機構が弱まり、 成人期発症の扁平足につながることがあります。
- 初期は内果後方の疼痛・腫脹が中心
- 進行するとアーチ低下、踵骨外反、前足部外転が生じる
- 評価では片脚踵上げ、後足部アライメント、変形の柔軟性が重要
- 初期には負荷軽減やインソールなどの保存療法を検討する
- 進行例ではUCBL型装具やAFOなど、より強い支持が必要になる場合がある
後脛骨筋腱機能不全では、早期に病態を把握し、 症状と変形の程度に合わせて装具療法を選択することが重要です。
参考文献
- Johnson KA, Strom DE. Tibialis posterior tendon dysfunction. Clin Orthop Relat Res. 1989;(239):196-206.
- Myerson MS. Adult acquired flatfoot deformity: treatment of dysfunction of the posterior tibial tendon. Instr Course Lect. 1997;46:393-405.
- Myerson MS, Thordarson DB, Johnson JE, et al. Classification and nomenclature: Progressive collapsing foot deformity. Foot Ankle Int. 2020;41(10):1271-1276.
- American Academy of Orthopaedic Surgeons. OrthoInfo:足部・足関節疾患に関する患者向け資料
記事制作全体の参考資料については、 記事制作・参考文献について をご覧ください。
治療用装具は医師の診察・処方に基づき、 症状や治療目的に合わせて選択されるものです。 自己判断で強いアーチ支持を行うと、 疼痛や圧迫を生じる場合があります。 内果周囲の痛みや足部変形が進行する場合は、 整形外科などの医療機関で相談してください。