手関節装具とは?種類・適応・メカニズムを義肢装具士が解説

手関節装具は上肢装具の一種であり、手関節の角度制御や固定を目的として使用されます。

保険上は「手背屈装具」「長対立装具」「把持装具」などに分類され、外傷から神経麻痺まで幅広い疾患に適応されます。

同じ手関節装具でも、痛みを軽減したいのか、安静を保ちたいのか、動作を補助したいのかによって構造は大きく異なります。

本記事では、代表的な手関節装具の種類とそのメカニズムについて解説します。

この記事で分かること

  • 手関節装具の大まかな分類
  • カックアップ装具の目的と特徴
  • ドゥ・ケルバン用装具の固定範囲
  • 把持装具の仕組みと代表例

手関節装具の分類

手関節装具は目的に応じて大きく以下の3つに分類されます。

  • 固定系(カックアップ)
  • 母指固定系(ドゥ・ケルバン用)
  • 機能代償系(把持装具)

固定を主目的とするもの、母指まで含めて安静を保つもの、失われた把持機能を補うものでは、形状も設計思想も異なります。

分類の見分け方

  • 痛みや炎症を抑えるための固定か
  • 母指の動きまで制限する必要があるか
  • 日常生活動作を補助する目的があるか
  • 夜間中心か、昼間中心か、訓練用か

カックアップ装具

カックアップ装具
手関節を背屈位または中間位で保持する代表的な手関節装具。

カックアップ装具は、手関節を一定角度で保持する代表的な手関節装具です。

過度な手関節運動を抑えながら、痛みの軽減や安静保持、機能補助を図る目的で広く使用されます。

適応

  • 橈骨・尺骨遠位端骨折
  • 手根管症候群
  • TFCC損傷
  • 手根骨骨折
  • 下垂手

手関節装具は、 手根管症候群 TFCC損傷 橈骨遠位端骨折 の保存療法としても代表的に使用されます。

特に夜間の手関節屈曲を防ぐことで、 手根管内圧の上昇を抑え、正中神経の圧迫軽減を目的とします。

構造による分類

  • 掌側型
  • 背側型
  • フレーム型(金属枠型)
  • サンドウィッチ型
  • ガートレット型
  • 8文字型
  • スパイラル型
  • パンケーキ型
  • プラットフォーム型

同じカックアップ装具でも、どこで支持するか、どこを開放するか、装着感や作業性をどう両立するかによって構造はさまざまです。

橈骨神経麻痺では、手関節や指の伸展が困難となる 「下垂手(wrist drop)」がみられることがあります。

この場合、カックアップ装具によって手関節を背屈位に保持することで、 把持機能や日常生活動作を補助できます。

詳しくは 橈骨神経麻痺とは? で詳しく解説しています。

正中神経麻痺について詳しく知りたい方へ
正中神経麻痺では、母指対立障害や猿手変形、母指球筋萎縮などが生じることがあります。
感覚障害の範囲や装具療法、リハビリについては 正中神経麻痺とは? で詳しく解説しています。

装着時間による分類

  • 夜間用

安静用装具でもあり、筋肉の弛緩性麻痺や治療過程、関節痛の軽減目的で使用されます。

夜間用とはいえ安眠妨害となることもあり、睡眠時は筋緊張が自然に戻る傾向があるため、睡眠時を避ける場合も多いです。

骨折後の安静目的で用いられるケースは適切と言えます。

  • 昼間用

日常生活様式や仕事の都合も考慮に入れ、構造分類からさまざまなタイプが選択されます。

  • 訓練用

昼間用装具の一部で、なかでも筋力訓練用装具は強い牽引力で短い時間の使用に限られます。

目的

  • 手関節の固定
  • 疼痛軽減(安静・保温)
  • 背屈位保持による機能補助

メカニズム

手関節を軽度背屈位(約20〜30°)で保持することで、

  • 屈筋腱の緊張バランスを最適化
  • 手内筋の効率的な働きを補助
  • 疼痛の軽減

を実現します。

特に軽度背屈位は、把持動作や手指の動きが比較的出しやすい肢位でもあり、固定と機能の両立がしやすい角度としてよく用いられます。

このような背屈位保持は、 手根管症候群 においては手根管内圧の低下に寄与し、 一方で TFCC損傷 では過度な手関節運動を抑制することで関節安定性の確保に寄与します。

▶ チェックポイント

・遠位トリミングは遠位手掌基線まで
・母指は原則フリー
・手指の自動運動を阻害しない設計

ドゥ・ケルバン用装具

ドゥ・ケルバン腱鞘炎について、詳しく ドゥ・ケルバン腱鞘炎とは?原因・特徴・装具の考え方を義肢装具士が解説 もあわせてご覧ください。

ドゥ・ケルバン用装具
手関節〜母指基節骨までを固定する装具。

ドゥ・ケルバン用装具は、手関節に加えて母指も含めて固定する装具です。

母指の動きによって腱鞘部へのストレスが強くなるため、手関節だけでなく母指の肢位管理も重要になります。

適応

  • ドゥ・ケルバン腱鞘炎
ドゥ・ケルバン腱鞘炎
長母指外転筋腱・短母指伸筋腱の腱鞘炎。

目的

  • 母指CM関節の固定
  • 手関節固定
  • 腱鞘の安静保持

メカニズム

母指の外転・伸展に関与する腱(APL・EPB)を固定することで、

  • 腱の滑走を抑制
  • 腱鞘へのストレス軽減
  • 炎症の改善

を目的とします。

炎症が強い時期には、患部を繰り返し動かさないことが重要であり、適切な固定範囲を持つ装具が保存療法の中心になります。

▶ チェックポイント

・母指は基節骨遠位まで固定
・IP関節は自由に動く設計

把持装具

把持装具
手関節背屈により把持動作を補助する装具。

把持装具は、手指の把持機能が低下した場合に、その動作を補助・再建する目的で用いられる装具です。

単なる固定ではなく、残存機能を活かしながら物をつまむ、持つといった動作につなげる点が特徴です。

適応

  • 頚髄損傷
  • 重度手指機能障害
  • 手根管症候群

処方上の注意点

上肢装具はフィッティングが重要視されるものですが、特に手掌部のトリムラインによって指の運動の遊動・固定・制限が決まるので注意です。

把持装具

上肢装具の特に手掌部のトリミングラインの設定については、 上肢装具の基礎 に詳しくまとめています。

目的

  • 把持機能の再建
  • 日常生活動作(ADL)の向上

手指の伸展力が弱いときは伸展補助機能付きを、

屈曲力が弱いときは屈曲補助機能付きを作られますが、

頚髄損傷患者に作られることが多い装具なので、屈曲力が弱いことが多いです。

メカニズム

手関節の背屈により指が屈曲する「テノデーシス効果」を利用します。

テノデーシス効果については、 テノデーシス効果 で詳しく解説しています。

これにより、

  • 自動的な把持動作
  • 機械的な把持補助

が可能となります。

残っている筋力や関節可動域を活かして機能を引き出すため、機能評価と装具設計の両方が非常に重要です。

原理

① 母指をやや尺側で掌側外転位に保ち、MP関節、PIP関節を伸展位に保つ

② 手関節を背屈するときのテノデーシス効果によりMP関節が屈曲する

③ 母指は把持肢位のまま、示指・中指の指腹でつまみ動作が行える

代表的な把持装具

ランチョ型

手関節駆動型。エンゲン型を原型にして開発された装具です。

  • 金属製指部品+U字型手掌部品
  • 橈側支柱から背側へバンドが伸びる構造

エンゲン型

手関節駆動型。現在はキット化されたものが普及しています。

  • プラスチック手掌部品+板バネ
  • 背屈時の橈側変位を吸収し滑らかな屈曲を実現

ウィスコンシン型

つめ車駆動式。屈曲は他動的に行いラチェットで固定し、伸展はその解除でバネが駆動します。

  • 分離型指部品(着脱可能)
  • 対立バー機能を持つ手掌部

IRM型

  • nyloplex製で軽量
  • ベルクロ不要の適合構造

これらの把持装具は、同じ「把持補助」を目的としていても、駆動方式や素材、適合方法が異なります。患者さんの残存機能や使用目的に応じた選択が重要です。

いずれも手関節を機能的肢位を邪魔しないデザインであることが多いです。
手の機能的肢位については、 手の機能的肢位 に詳しくまとめています。

まとめ

手関節装具は、

  • 固定(カックアップ)
  • 母指固定(ドゥ・ケルバン用)
  • 機能代償(把持装具)

という3つの役割に大きく分類されます。

特に重要なのは「目的に応じた装具選択」です。

単なる固定ではなく、機能改善・疼痛軽減・動作補助など、目的に応じた設計が求められます。

どの関節をどこまで固定するのか、どの機能を守るのか、あるいは補うのかを整理して考えることで、手関節装具の違いが理解しやすくなります。

記事の参考文献について
本記事は、義肢装具士としての臨床経験および、 学会監修書籍・専門文献を参考に作成しています。
詳しくは 参考文献・制作方針 をご覧ください。
装具の使用について
治療用装具は、医師の診察・処方に基づき、症状や目的に合わせて選択されるものです。 自己判断で購入・使用すると、症状に合わなかったり、療養費の対象外となる場合があります。 痛みが続く場合は、整形外科などの医療機関で相談してください。
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