橈骨神経麻痺とは?下垂手の原因・症状・装具療法を義肢装具士が解説

手首が上がらない、指を伸ばしにくい、物を握りにくい——。
このような症状がある場合、橈骨神経麻痺が関係していることがあります。

橈骨神経麻痺では、手関節や指を伸ばす筋肉が働きにくくなり、代表的な症状として 下垂手(drop hand)がみられます。

本記事では、橈骨神経麻痺の原因、症状、装具療法、リハビリテーションの考え方を、 義肢装具士の視点から分かりやすく解説します。

この記事で分かること

  • 橈骨神経麻痺で下垂手が起こる理由
  • 橈骨神経麻痺の代表的な原因
  • 手関節装具・動的スプリントの役割
  • テノデーシス効果や機能的肢位との関係
  • 義肢装具士が装具設計で見るポイント

橈骨神経麻痺とは

橈骨神経麻痺とは、腕から手にかけて走行する橈骨神経が障害されることで、 手関節や指の伸展が困難になる状態です。

橈骨神経は、主に上腕後面から前腕背側を走行し、手関節や指を伸ばす筋肉に関わります。

橈骨神経の走路
橈骨神経の走路
  • 手関節を背屈する筋
  • 指を伸展する筋
  • 母指を伸展・外転する筋

これらの筋肉が働きにくくなることで、手首が垂れ下がったような姿勢になり、 日常生活動作に支障が出ます。

橈骨神経の支配筋

橈骨神経が支配する筋は以下の通りです。

  • 上腕三頭筋
  • 肘筋
  • 上腕筋
  • 腕橈骨筋
  • 長・短橈側手根伸筋
  • 回外筋
  • 尺側手根伸筋
  • 指伸筋
  • 小指伸筋
  • 示指伸筋
  • 長・短母指伸筋
  • 長母指外転筋

橈骨神経の前腕部はその名の通り橈骨側を通り、母指・示指の伸展と外転、手関節の背屈に関与します。

つまりこの橈骨神経が麻痺すると、手関節の背屈と手指の伸展が不能になるのです。

下垂手とは

下垂手
下垂手

橈骨神経麻痺の代表的な症状が、下垂手です。

下垂手とは、手関節を背屈する筋肉が働かず、 手首が重力に負けて掌屈方向へ垂れ下がる状態をいいます。

  • 手首が上がらない
  • 手を前に出すと手首がだらんと落ちる
  • 指を伸ばしにくい
  • 物を握りにくい

見た目では「手首が落ちている」ことが目立ちますが、 実際には握る動作にも大きく影響する点が重要です。

なぜ握りにくくなるのか

橈骨神経麻痺では、指を曲げる筋肉そのものが完全に麻痺していなくても、 物を握りにくくなることがあります。

これは、手指をしっかり曲げるためには、 手関節がある程度背屈位で安定している必要があるためです。

手関節が掌屈位に落ちたままだと、指屈筋が効率よく働きにくくなり、 握力や把持能力が低下します。

この仕組みは テノデーシス効果とは? と深く関係します。

また、手を使いやすい位置に保つ考え方については 手の機能的肢位とは? でも詳しく解説しています。

橈骨神経麻痺の原因

橈骨神経麻痺には、外傷や圧迫などさまざまな原因があります。

上腕骨骨幹部骨折

橈骨神経は上腕骨の後面を走行するため、 上腕骨骨幹部骨折に伴って損傷されることがあります

骨折部位や転位の程度によって、神経が牽引・圧迫・損傷される可能性があります。

長時間の圧迫

腕を圧迫した状態で長時間寝てしまうことで、橈骨神経麻痺を生じることがあります。

飲酒後などに腕を圧迫したまま眠ってしまうケースでは、 いわゆるSaturday night palsyとして知られています。

Saturday Night Palsy
Saturday Night Palsy

松葉杖や装具による圧迫

不適切な松葉杖の使用や、外部からの持続的な圧迫によって神経症状が出ることもあります。

松葉杖の基本的な使い方については 松葉杖の使い方 で解説しています。

後骨間神経麻痺

橈骨神経の枝である後骨間神経が障害されると、 主に指や母指の伸展障害がみられます。

この場合、感覚障害を伴わないこともあり、 手関節背屈がある程度保たれるケースもあります。

橈骨神経麻痺でみられる症状

運動障害

  • 手関節背屈困難
  • 指伸展困難
  • 母指伸展困難
  • 把持動作の低下
  • 物を離す動作の困難

特に手関節背屈ができない場合、日常生活では食事、更衣、書字、パソコン操作などに影響します。

感覚障害

橈骨神経の障害部位によっては、手背橈側にしびれや感覚低下を認めることがあります。

ただし、後骨間神経麻痺では感覚障害を伴わない場合もあります。

装具療法の目的

手関節背屈を保持する装具
手関節背屈を保持する装具

橈骨神経麻痺では、装具療法が重要になることがあります。

装具の目的は、単に手首を固定することではありません。

  • 手関節を背屈位で保持する
  • 把持しやすい手の位置を作る
  • 指屈筋の働きを引き出しやすくする
  • 日常生活動作を補助する
  • 拘縮や変形を予防する

特に、手関節を適切な位置に保持することで、 握る・つまむ・離す動作を行いやすくすることができます。

使用される装具

手関節装具

橈骨神経麻痺では、 手関節を軽度背屈位で保持する手関節装具が使用されることがあります。

手関節を背屈位で支えることで、指屈筋が働きやすくなり、 把持動作を補助できます。

手関節装具の基本については 手関節装具とは? で詳しく解説しています。

正中神経麻痺についての記事は 正中神経麻痺とは? で解説しています。

手のスプリント

指の伸展補助が必要な場合には、手関節だけでなく指の動きまで考慮したスプリントが検討されます。

手のスプリント全体の考え方については 手のスプリントとは? も参考になります。

動的スプリント

動的スプリントは、ゴムやワイヤーなどの力を利用して、 指の伸展を補助しながら、屈曲動作は可能にする装具です。

橈骨神経麻痺では、MP関節の伸展補助を行うことで、 手指の開閉動作を助ける目的で使用されることがあります。

装具設計で重要なポイント

手関節角度

手関節は、軽度背屈位で保持されることが多いです。

ただし、角度は症状や可動域、使用目的によって調整されます。

  • 把持しやすい角度か
  • 痛みが出ないか
  • 長時間装着できるか
  • ADLで邪魔にならないか

背屈角度を強くすればよいわけではなく、 実際に使いやすい角度に設定することが重要です。

MP関節の伸展補助

指が伸ばしにくい場合、MP関節の伸展補助が必要になることがあります。

このとき、完全に固定するのではなく、 屈曲動作を妨げすぎない設計が求められます。

母指の位置

母指の位置は、つまみ動作に大きく影響します。

母指が使いやすい位置に保たれているかどうかは、 食事動作や書字動作にも関わります。

リハビリテーションの考え方

橈骨神経麻痺では、装具だけでなくリハビリテーションも重要です。

関節可動域の維持

麻痺により自動運動が少なくなると、関節が硬くなりやすくなります。

  • 手関節
  • MP関節
  • PIP関節
  • 母指CM関節
  • 母指web

これらの可動域を保つことで、回復後の手の使いやすさにもつながります。

ADL練習

日常生活では、手首や指を完全に動かせなくても、 装具や動作方法の工夫によってできる動作が増えることがあります。

  • 食事
  • 更衣
  • 書字
  • スマートフォン操作
  • パソコン操作

必要に応じて 自助具とは? も選択肢になります。

義肢装具士の視点

橈骨神経麻痺の装具では、 「手首を上げる装具を作る」だけでは不十分です。

重要なのは、患者さんが実際に何をしたいのかを確認することです。

  • 仕事でパソコンを使うのか
  • 食事動作を改善したいのか
  • 書字をしやすくしたいのか
  • 一時的な補助なのか、長期使用なのか

同じ橈骨神経麻痺でも、必要な装具は人によって異なります。

義肢装具士としては、 麻痺の程度、残存機能、生活動作、装着時間を総合的に考えて設計すること が大切です。

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まとめ

  • 橈骨神経麻痺では下垂手がみられる
  • 手関節背屈ができないと把持動作にも影響する
  • 手関節装具は把持を補助する目的で使用される
  • 動的スプリントでは指伸展を補助できる
  • テノデーシス効果や機能的肢位の理解が重要

橈骨神経麻痺は、見た目には「手首が落ちる」症状として分かりやすい一方で、 実際には把持、つまみ、日常生活動作に大きく影響します。

装具療法では、単に固定するのではなく、 手を使いやすい位置に整え、残っている機能を引き出すこと が重要です。

記事の参考文献について
本記事は、義肢装具士としての臨床経験および、 学会監修書籍・専門文献を参考に作成しています。
詳しくは 参考文献・制作方針 をご覧ください。
装具の使用について
治療用装具は、医師の診察・処方に基づき、症状や目的に合わせて選択されるものです。 自己判断で購入・使用すると、症状に合わなかったり、療養費の対象外となる場合があります。 手首が上がらない、しびれがある、力が入りにくいなどの症状がある場合は、整形外科などの医療機関で相談してください。
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